症例で学ぶ画像の見方

手関節X線画像の見方:見落としやすい舟状骨骨折を捉える

Tags: 手関節, 舟状骨骨折, X線, 画像診断, 放射線技師

はじめに

手関節の外傷において、舟状骨骨折は比較的頻繁に発生しますが、その診断は必ずしも容易ではありません。特に新鮮骨折の場合、通常のX線画像では骨折線が不明瞭で見落とされやすく、偽関節や無腐性壊死といった合併症につながる可能性があるため、放射線技師が的確に画像から情報を引き出すことが非常に重要となります。

この記事では、手関節X線画像における舟状骨骨折を見落とさないための実践的な画像の見方について解説します。実際の症例画像を見ることを想定し、どこに注目すべきか、どのような所見を探すべきか、そして見逃しを防ぐためのポイントを学んでいきましょう。

症例提示(解説パート)

手関節の外傷で撮影されたX線画像(通常、正面、側面、斜位の3方向)を読影する際に、舟状骨骨折を疑う場合、以下の点に特に注目して観察を進めます。

まず、手関節正面像では、舟状骨は橈骨遠位端の外側に位置しています。この方向では、舟状骨の長軸方向の骨折線が見えやすいことがあります。しかし、転位の少ない骨折や非転位骨折の場合、骨折線は非常に細く、注意深く観察しなければ見落とす可能性があります。舟状骨の輪郭、特に近位側の関節面や遠位側の結節部分を丁寧にたどるように見てください。

次に、手関節側面像です。側面像では舟状骨は大きく重なって写るため、骨折線の描出には不向きなことが多いですが、舟状骨と月状骨の関係性(舟月角や舟月間距離)や、大きな転位の有無を確認する上で重要です。特に、舟状骨と月状骨の間の裂隙が拡大している場合(Terry Thomas sign)は、舟状骨靭帯損傷や舟状骨骨折による不安定性を示唆している可能性があります。

診断において最も重要な情報を提供することが多いのが、手関節斜位像、特に「舟状骨ビュー」と呼ばれる画像です。この方向では、舟状骨が長軸方向に引き延ばされたような形で描出されるため、通常の正面像や側面像では見えにくい骨折線が明瞭になることがあります。舟状骨ビューでは、舟状骨全体を複数の角度から観察し、微細な骨折線や段差がないか、骨皮質が途切れていないかを丹念に確認することが鍵となります。特に、舟状骨のウェストと呼ばれる中央部は血行が悪くなりやすく、骨折の好発部位であるため、注意深く観察する必要があります。

画像の見方のポイント

舟状骨骨折の見落としを防ぐためには、単に骨折線を探すだけでなく、いくつかのポイントを意識した系統的な読影が必要です。

  1. 複数の方向からの観察: 正面、側面、斜位(舟状骨ビューを含む)といった複数の方向から得られた情報を総合的に判断します。ある方向で見えなくても、別の方向では明瞭に見えることがあります。
  2. 骨折線の探索: 骨折線は必ずしも明瞭なラインとして描出されるわけではありません。皮質のわずかな段差、骨梁構造の不連続性、透過性の線状変化、または圧迫による骨皮質の肥厚(impaction fracture)として現れることもあります。画像を注意深く濃度調整しながら観察することが有効です。
  3. 関節裂隙の評価: 舟状骨と周囲の骨(橈骨、月状骨、大菱形骨、小菱形骨)との間の関節裂隙に異常な拡大や狭小化がないかを確認します。特に舟状骨-月状骨間裂隙の拡大(Terry Thomas sign)は不安定性を示唆する重要な所見です。
  4. 軟部組織所見: 骨折部の周囲に一致した腫脹や脂肪線(例: Scaphoid fat stripe)の消失・偏位といった軟部組織の異常も、骨折の存在を示唆する間接所見となり得ます。
  5. 比較観察: 可能であれば、反対側の手関節と比較することで、わずかな違いや異常を認識しやすくなります。
  6. 追加撮影や他モダリティ: 初回X線で骨折が疑わしいものの確定診断に至らない場合や、転位の評価、合併症の有無を確認する場合には、舟状骨ビューの追加撮影、CT、MRIといった他のモダリティでの評価が必要となります。CTは骨折線の詳細な評価や転位の程度把握に、MRIは初期の骨折や靭帯損傷、骨壊死の評価に有用です。

臨床的な意義・注意点

舟状骨骨折は、手関節の最も一般的な骨折の一つであり、転倒して手をついた際などに発生することが多いです。特に、回外強制位での手掌接地による受傷は、舟状骨に剪断力や圧迫力が加わりやすく、骨折の原因となります。

この骨折が臨床的に重要視されるのは、舟状骨の血行が近位側部分で乏しく、骨折によってさらに血行が障害されると、無腐性壊死や偽関節といった重篤な合併症を引き起こしやすいことにあります。これらの合併症は、手関節の機能障害や痛みの原因となり、長期的な予後に関わります。そのため、早期に正確な診断を行い、適切な治療を開始することが非常に重要です。

放射線技師としては、医師から舟状骨骨折が疑われる、あるいは外傷の既往があるといった情報を得た際に、通常のルーチン撮影に加えて舟状骨ビューの撮影を検討することや、撮影時に患者さんに正確なポジショニングを依頼し、目的の方向で舟状骨が適切に描出されているかリアルタイムで確認するスキルが求められます。また、読影時に疑わしい所見を発見した際には、積極的に医師に情報を共有することも、診断の迅速化に繋がります。

まとめ

手関節舟状骨骨折は、初期X線画像での見落としのリスクがある重要な骨折です。見落としを防ぐためには、正面、側面だけでなく、特に舟状骨ビューを含む複数の方向からの画像を系統的に、そして注意深く観察することが不可欠です。微細な骨折線や皮質の不連続性、関節裂隙の変化、軟部組織の所見といった間接的な情報も見逃さないようにしましょう。診断に迷う場合や合併症が疑われる場合には、CTやMRIといった他のモダリティが非常に有用となります。

放射線技師として、舟状骨骨折の臨床的な重要性を理解し、高品質な画像を提供すること、そして画像から得られる情報を最大限に引き出し、医師と連携して早期かつ正確な診断に貢献することが求められます。日々の業務の中で、これらのポイントを意識しながら画像に向き合うことで、読影スキルは確実に向上していくことでしょう。