脊椎MRI画像の見方:腰椎椎間板ヘルニアをどう捉えるか
はじめに
この記事では、腰椎椎間板ヘルニアの脊椎MRI画像の見方について解説します。腰痛や下肢痛の原因として頻繁に遭遇する疾患であり、その診断においてMRIは非常に重要なモダリティです。経験年数3年程度の放射線技師の皆様が、実際の画像を見る際に役立つ実践的なポイントを中心に説明します。この記事を通して、腰椎椎間板ヘルニアのMRI所見を適切に捉える力を養う一助となれば幸いです。
症例提示(解説パート)
腰椎椎間板ヘルニアが疑われる症例のMRI画像を見ながら、注目すべき点を確認していきます。
まず、腰椎の正中矢状断T2強調像を見てみましょう。T2強調像では、水分を多く含む髄核は高信号(白く)に、線維輪は比較的低信号(黒く)描出されます。椎間板ヘルニアは、この髄核の一部が線維輪を破って後方や後外側に突出した状態です。画像では、椎間板腔の後縁から、椎間板と異なる形状や信号強度の構造物が突出しているのが確認できるはずです。
次に、同じ部位の正中矢状断T1強調像を見てください。T1強調像では、椎間板は比較的低信号に描出されます。ヘルニアの信号強度はその内容物によって異なりますが、一般的にはT2強調像よりも低信号に見えることが多いです。
続いて、突出部位の軸位断像を見てみましょう。軸位断像では、突出した椎間板物質が硬膜嚢(脊髄や神経根を包む膜)や神経根を圧迫している様子を詳細に観察できます。硬膜嚢が圧排されて変形している、あるいは神経根が圧迫されて細くなっているなどの所見に注目してください。T2強調像の軸位断では、神経根周囲の脳脊髄液が高信号に描出されるため、神経根と突出物の位置関係がより明確に把握しやすいでしょう。
画像を見る際には、ヘルニアがどのレベル(例えばL4/5椎間板)で発生しているか、突出の方向(後方、後外側、傍正中など)、突出の程度、そして周囲の神経構造(硬膜嚢、神経根)への影響を具体的に捉えることが重要です。
画像の見方のポイント
- シーケンスの選択と信号強度: 腰椎MRIでは、通常T1強調像とT2強調像の矢状断および軸位断が基本となります。椎間板ヘルニアの評価においては、髄核が高信号となるT2強調像が突出物の検出や硬膜嚢・神経根の圧迫評価に特に有用です。ヘルニア塊自体の信号強度は、急性期で水分が多い場合はT2強調像で高信号、陳旧化して線維化が進むと低信号になるなど、病態や経過によって変化しうることを理解しておくと良いでしょう。
- 突出の方向と神経根との関係: 椎間板ヘルニアは、後方、後外側、傍正中、外側(椎間孔内・外)など様々な方向に突出します。突出方向によって圧迫される神経根が異なります。例えば、L4/5椎間板の後外側ヘルニアはL5神経根を圧迫することが多いといった典型的なパターンを知っておくと、画像所見の解釈に役立ちます。軸位断像で、どの神経根が、どの程度圧迫されているかを正確に評価することが臨床的に非常に重要になります。
- 付随所見: ヘルニア以外にも、椎間板の変性(信号強度の低下や狭小化)、骨棘形成、椎体の辺縁硬化(Modic変化)、脊柱管狭窄、関節突起関節の変性なども腰痛の原因となりうる所見です。これらの付随所見も合わせて評価することで、患者さんの病態全体をより正確に把握することができます。
- 造影MRIの応用: 感染や腫瘍との鑑別が必要な場合、あるいは術後の瘢痕組織と再発ヘルニアの鑑別などには、造影MRIが有用な場合があります。造影剤は通常、ヘルニア塊自体にはあまり濃染しませんが、炎症性の肉芽組織や腫瘍、術後の瘢痕組織は濃染することがあります。
臨床的な意義・注意点
腰椎椎間板ヘルニアのMRI所見は、患者さんの症状(腰痛、下肢の痛みやしびれ、筋力低下など)と照らし合わせて総合的に判断されます。画像上でヘルニアが見られても、必ずしもそれが症状の原因とは限らない場合もあります。
放射線技師としては、診断に必要な情報を最大限に引き出せるよう、適切なポジショニングと正確なスキャン範囲の確認が重要です。特に軸位断スライスは、椎間板に平行になるようにアライメントを設定することで、椎間板の突出を最も明確に描出できます。また、金属アーチファクトなどが発生しないよう、身につけているものや検査室内の環境に注意を払う必要があります。
まとめ
腰椎椎間板ヘルニアのMRI画像評価は、T1強調像、T2強調像を中心に、矢状断と軸位断を組み合わせて行うことが基本です。画像からは、ヘルニアの存在、位置、大きさ、信号強度、そして最も重要な神経構造への影響を具体的に読み取ることが求められます。今回の内容が、皆様の日常業務における腰椎MRI画像の見方の一助となれば幸いです。