症例で学ぶ画像の見方

肩関節X線画像の見方:肩関節脱臼をどう捉えるか

Tags: 肩関節, X線, 脱臼, 外傷, 画像の見方

はじめに

肩関節脱臼は、スポーツ外傷や転倒などにより比較的頻繁に発生する外傷の一つです。放射線技師は、救急外来などで迅速かつ正確に脱臼の有無や方向、合併症の兆候を画像から読み取るスキルが求められます。この記事では、肩関節X線画像における脱臼の見方について、実践的なポイントを解説します。

症例提示(解説パート)

実際の肩関節脱臼症例のX線画像を評価する際、まず標準的な撮影法である正面像(AP view)を確認します。正常な状態では、上腕骨頭は肩甲骨の関節窩に適切に収まっています。脱臼が生じている場合、上腕骨頭と関節窩の間にずれが生じているのが観察できます。

特に前方脱臼では、上腕骨頭が関節窩より前下方へ移動していることがAP像から示唆される場合があります。しかし、AP像だけでは脱臼の方向(前方か後方か)を正確に判断するのが難しいことがあります。

ここで重要になるのが、側面像の評価です。肩関節の側面像にはいくつかの方法がありますが、Y-view(肩甲骨側面像)やAxillary view(腋窩像)は脱臼方向の評価に非常に有用です。

Y-viewでは、肩甲骨の烏口突起、肩峰、体部がY字型に見え、その中心(Y字の交点)に関節窩が位置します。正常な状態では、上腕骨頭はこのY字の交点に重なって見えます。前方脱臼の場合、上腕骨頭はY字の交点よりも前方に位置して見え、後方脱臼の場合は後方に位置して見えます。この位置関係を確認することで、脱臼の方向を判断します。

Axillary viewは、上腕骨頭と関節窩の正確な位置関係をより直接的に評価できる側面像です。このビューでは、上腕骨頭が関節窩に対して前方、後方、あるいは下方のどこに位置しているかを明確に確認できます。特に後方脱臼はAP像やY-viewで見落とされやすいため、Axillary viewでの評価が必須となる場合があります。

また、脱臼に合併して骨折が生じている可能性も考慮して画像を見ます。関節窩前下縁の骨折(Bankart損傷の骨性成分)や、上腕骨頭後外側の圧迫骨折(Hill-Sachs損傷)などがよく合併します。これらの骨折を示唆する所見がないか、骨輪郭を注意深く観察することも重要です。

画像の見方のポイント

臨床的な意義・注意点

肩関節脱臼の診断と評価は、適切な治療方針(整復、手術など)の決定に不可欠です。放射線技師は、単に「脱臼している」と判断するだけでなく、脱臼の方向や合併骨折の有無など、治療医が必要とする情報を画像から正確に読み取り、提供する役割を担います。

撮影時には、患者さんは強い痛みを訴えている場合が多く、体動が大きくなる可能性があります。患者さんの苦痛を最小限にしつつ、診断に必要な複数の方向からの画像を歪みなく撮影することが求められます。特に側面像の撮影は患者さんの協力が必要なため、適切なポジショニングと声かけが重要になります。

また、X線画像で明らかな骨折がなくても、軟骨や靭帯、関節包の損傷(Bankart損傷の骨性成分を伴わないものなど)が生じている可能性もあります。これらの評価にはMRIなどが用いられますが、X線画像で得られる情報(脱臼の方向、骨性Bankart、Hill-Sachsなど)は初期評価として非常に重要です。

まとめ

肩関節脱臼のX線画像評価では、AP view、Y-view、Axillary viewといった複数の撮影方向からの画像を用いて、上腕骨頭と関節窩の位置関係を注意深く観察することが重要です。特にY-viewやAxillary viewは脱臼方向の判断に有用であり、後方脱臼の見落としを防ぐためにも必須の評価です。また、Bankart損傷やHill-Sachs損傷などの合併骨折の有無も確認し、臨床医に正確な情報を提供することが、患者さんの適切な治療につながります。日々の検査において、これらの点を意識して画像を見るように心がけましょう。