症例で学ぶ画像の見方

骨盤X線画像の見方:大腿骨頸部骨折をどう捉えるか

Tags: 骨盤X線, 大腿骨頸部骨折, 骨折, 画像診断, 放射線技師

はじめに

この記事では、骨盤X線画像における大腿骨頸部骨折の見方に焦点を当てます。大腿骨頸部骨折は高齢者に多く、転倒などが原因で発生することが一般的です。適切な診断と早期治療が予後を大きく左右するため、放射線技師として迅速かつ正確に骨折を捉えることが重要です。ここでは、実際の画像を見る際に注目すべき具体的なポイントや、見落としやすい骨折の見方について解説します。

症例提示(解説パート)

骨盤正面像と、可能であれば側面像や牽引撮影像が提供されたと仮定して解説を進めます。

まず、大腿骨近位部全体、特に大腿骨頭、頸部、転子部を入念に観察します。骨折は、骨頭と転子部をつなぐ大腿骨頸部に発生します。

画像を見る際には、以下の点に注目してください。

  1. 骨折線の確認: 大腿骨頸部に不連続な線状影がないかを探します。明らかな転位がある骨折では骨折線は比較的容易に視認できますが、不完全骨折(亀裂骨折)や非転位骨折の場合、骨折線が非常に細かったり、骨皮質のわずかな不整としてしか見えなかったりすることがあります。特に骨盤正面像では、大腿骨頸部は短縮や内旋によって見え方が変わるため、注意深く観察する必要があります。

  2. 骨形態の変化: 大腿骨頸部の角度や形態に異常がないかを確認します。Garden分類などの骨折型分類を念頭に置きながら、骨頭と頸部の位置関係、頸部の短縮、内旋・外旋の程度などを評価します。Garden分類では、非転位不全骨折(I型)から完全転位骨折(IV型)まで分類され、それぞれ画像所見が異なります。例えば、I型では骨折線が不明瞭でも、内側皮質のわずかな湾曲の変化や骨棘の消失として現れることがあります。IV型では、骨頭が寛骨臼内に残り、頸部が著しく外側・上方に転位し、骨頭と頸部の連続性が失われているように見えます。

  3. 二次的な所見: 骨折に伴う二次的な所見がないかも確認します。例えば、骨片の分離、関節内の液体貯留(血腫など)、周囲軟部組織の腫脹などです。ただし、これらの所見は骨折の存在を強く示唆しますが、骨折線自体の確認が最も重要です。

  4. 側面像の重要性: 正面像で見落としやすい骨折は、側面像で捉えられることがあります。特に、頸部の前後方向の転位や、骨頭の前傾・後傾などが評価可能です。また、牽引撮影は骨折部のわずかな転位を明確にしたり、隠れた骨折線を描出したりするのに有効な場合があります。

画像の見方のポイント

大腿骨頸部骨折の診断においては、以下の点を意識することが実践的です。

臨床的な意義・注意点

大腿骨頸部骨折は、高齢者にとってADL(日常生活動作)を著しく制限し、生命予後にも影響を与える重篤な外傷です。多くの場合、手術による治療が必要となります。放射線技師は、正確な画像を提供することで、早期の診断と治療方針決定に貢献します。

検査に際しての注意点としては、受傷者は痛みを強く訴えていることが多いため、無理な体位を強いることなく、苦痛を最小限に抑えつつ診断に必要な画像を得るための工夫が必要です。寝台への移動やポジショニングは慎重に行い、骨折部をさらに不安定にさせないように配慮します。また、全身状態の把握や既往歴(特に骨粗鬆症や認知症など)の確認も、撮影条件の調整や被写体への声かけに役立ちます。

まとめ

骨盤X線画像における大腿骨頸部骨折の見方について解説しました。明らかな転位骨折は診断が比較的容易ですが、不完全骨折や非転位骨折は見落とされやすい場合があります。画像全体を注意深く観察し、骨折線だけでなく、骨形態の変化や二次的な所見にも目を配ることが重要です。また、正面像だけでなく側面像などの追加撮影が診断に不可欠となるケースがあることも理解しておいてください。正確な画像を提供することが、患者さんの早期回復につながります。