膝関節MRIの見方:半月板損傷をどう捉えるか
はじめに
膝関節痛の原因として頻繁に挙げられる疾患の一つに、半月板損傷があります。半月板は膝関節の大腿骨と脛骨の間にあるC字型の軟骨組織で、衝撃吸収や関節の安定化に重要な役割を果たしています。この半月板の損傷は、スポーツ外傷や加齢による変性など様々な原因で生じ、適切な診断と治療が必要となります。
放射線技師として、膝関節MRI検査を担当する機会は多く、半月板損傷の有無や程度を評価するための質の高い画像をどのように提供するかが重要となります。この記事では、膝関節MRIにおける半月板損傷の見方について、実際の画像を見ている状況を想定しながら、注目すべきポイントを解説します。
症例提示(解説パート)
実際の膝関節MRI画像をご覧になっているとします。半月板損傷を疑う場合、特に注目すべきは半月板自体の形態と内部信号です。
正常な半月板は、T1強調像、T2強調像ともに内部信号が低く(黒く)描出されます。これは、半月板が主に線維軟骨で構成されており、プロトンの密度が低いためです。
損傷がある場合、その種類や程度によって画像所見は異なります。一般的に、半月板内に異常な高信号域が出現することが損傷を示唆するサインとなります。
例えば、T2強調脂肪抑制画像で、半月板内に明確な高信号線状影が認められ、その高信号が半月板の関節面にまで達している場合、これは半月板断裂の可能性が高い所見と考えられます。損傷のタイプ(水平断裂、垂直断裂、フラップ断裂など)によって、高信号の形状や走行が特徴的に見えます。
また、半月板の形態変化も重要な所見です。正常なC字型の形態が崩れていたり、一部が欠損していたり、関節包から逸脱していたりする場合も損傷を示唆します。特に、ロッキング(膝が完全に伸びない状態)の原因となるバケツ柄断裂などでは、断裂した半月板の一部が関節内に挟まり込むように描出されることがあります。
画像を確認する際は、内側半月板と外側半月板の両方を注意深く観察することが大切です。それぞれ損傷しやすい部位やパターンが異なるため、内側後角、外側後角、体部、前角といった各部位を系統的に見ていく習慣をつけることが推奨されます。
画像の見方のポイント
半月板損傷の評価において、MRIは非常に有用なモダリティですが、いくつかの注意点があります。
- 信号強度: 半月板内の信号変化は、損傷だけでなく変性によっても生じます。grade 1やgrade 2の信号変化は変性を示すことが多いですが、関節面に達するgrade 3の信号変化は断裂を示唆します。T2強調像や脂肪抑制画像で関節面に達する高信号を明確に捉えることが重要です。
- 形態: 半月板の辺縁、特に上下の関節面と接する部分が滑らかであるかを確認します。不整な辺縁や、関節面からの高信号の伸び込みは損傷を示唆します。
- シーケンス: T1強調像で半月板の形態を確認し、T2強調像や脂肪抑制画像で内部信号の変化や関節液との交通(断裂)を確認するのが一般的です。多方向(矢状断、冠状断、横断)の画像を組み合わせて評価することが不可欠です。特に矢状断像は半月板の形状や断裂線の走行を捉えやすく、冠状断像は辺縁の断裂や逸脱を確認するのに有用です。
- マジックアングル現象: 矢状断像で、半月板が撮像方向と約55°の角度をなす部分において、T1強調像やプロトン密度強調像で高信号に見えることがあります。これは損傷によるものではなく、コラーゲン線維の走行と磁場との関係で生じる偽高信号であり、T2強調画像では消失するため区別が必要です。
臨床的な意義・注意点
放射線技師として、半月板損傷の画像を適切に提供することは、医師の正確な診断に直結します。
- 撮像プロトコル: 半月板を評価するためには、高分解能の撮像が必要です。薄いスライス厚(3mm以下が望ましい)で撮像することで、小さな断裂や複雑な断裂パターンも捉えやすくなります。また、脂肪抑制画像は関節液や骨挫傷など他の高信号域との区別を助け、半月板内の異常信号を際立たせるために重要です。
- 体位: 膝関節は軽度屈曲位で撮像することが一般的です。これにより、半月板の前角・後角が関節裂隙に収まりやすくなり、評価が容易になります。
- 患者情報: 臨床情報(年齢、受傷機転、症状、疼痛部位など)を把握しておくことも、画像のどの部分に注意を払うべきかを理解する上で役立ちます。例えば、スポーツ外傷であれば特定のタイプの断裂を、高齢者であれば変性による損傷を想定しながら画像を見ることができます。
まとめ
膝関節MRIにおける半月板損傷の評価は、半月板の形態と内部信号の変化を、様々な撮像シーケンスと方向で系統的に確認することが基本となります。特にT2強調脂肪抑制画像での関節面に達する高信号は断裂を示唆する重要な所見です。マジックアングル現象のような偽高信号との区別も重要です。
経験を重ねることで、正常バリエーションや様々な損傷パターンを識別する能力が向上します。日々の業務で多くの症例画像に触れ、解剖学的な知識を常に確認しながら、質の高い画像提供と画像評価能力の向上を目指していきましょう。