膝関節MRIの見方:前十字靭帯損傷をどう捉えるか
はじめに
この記事では、膝関節のMRI検査において遭遇することの多い、前十字靭帯(以下、ACL)損傷の画像の見方について解説します。ACL損傷はスポーツ外傷などで頻繁に発生し、その診断にはMRIが非常に有用です。経験3年程度の放射線技師の皆様が、実際の画像を前にした際に自信を持って評価できるよう、具体的なポイントに焦点を当てて説明します。
症例提示(解説パート)
膝関節のMRI検査では、主に矢状断(Sagittal)、冠状断(Coronal)、横断(Axial)の各断面で画像を評価します。ACLは、大腿骨顆間窩から脛骨棘にかけて斜めに走行する靱帯です。特に矢状断像でその走行を明瞭に描出できます。
正常なACLは、矢状断像のT1強調像やプロトン密度強調像、T2強調像などで、低信号域として比較的均一な太さで描出されます。線維構造が張った状態で確認できるのが特徴です。
ACL損傷の画像所見は、完全断裂と部分的損傷で異なります。
- 完全断裂: 矢状断像で、ACLの線維が完全に途絶している像として描出されます。断裂端が確認できる場合や、靱帯の走行方向に不連続性が認められます。損傷部位には出血や浮腫を反映した高信号域を伴うことが多いです。
- 部分的損傷: ACLの線維の一部が断裂している状態です。靱帯全体の連続性は保たれていますが、内部に信号変化(高信号域)が認められたり、靱帯の線維構造が不明瞭になったりします。完全断裂に比べて診断が難しい場合があります。
画像の見方のポイント
ACL損傷を評価する際には、靱帯そのものの信号や連続性(Primary signs)だけでなく、損傷に関連する他の所見(Secondary signs)も合わせて評価することが重要です。
- ACLの信号と連続性: 矢状断像でACLの走行全体を確認し、信号変化や線維の連続性を評価します。特に、大腿骨付着部、中央部、脛骨付着部のどこに損傷があるかを確認します。脂肪抑制T2強調像や脂肪抑制プロトン密度強調像は、浮腫や出血による信号変化を捉えやすいため、損傷の検出に有用です。
- Secondary signs:
- 骨挫傷(Bone bruise): ACL損傷時に合併することが非常に多い所見です。特に、大腿骨外側顆後方と脛骨外側顆前方に圧痕骨折に伴う骨挫傷が高頻度で認められます。脂肪抑制T2強調像で、これらの部位に高信号域として描出されます。
- 半月板損傷: ACL損傷の約半数に半月板損傷を合併すると言われています。特に外側半月板の後節や内側半月板の前節に損傷が多い傾向があります。
- 側副靱帯損傷: 内側側副靱帯(MCL)損傷や外側側副靱帯(LCL)損傷を合併することもあります。それぞれの靱帯周囲の信号変化や連続性を確認します。
- Hoffa's fat padの浮腫: 膝蓋下脂肪体の浮腫も合併することがあります。
複数の断面、複数のシーケンスを組み合わせて評価することで、ACL損傷の正確な診断に繋がります。例えば、冠状断像や横断像では、ACLの太さや周囲組織との関係性を確認できます。
臨床的な意義・注意点
放射線技師として、ACL損傷が疑われる症例のMRI撮影においては、いくつかの注意点があります。
まず、適切な撮影プロトコルと撮像条件の選択が重要です。ACLの描出に適した矢状断の撮像角度(膝関節の屈曲角度を含む)や、浮腫・信号変化を捉えやすい脂肪抑制法の選択が求められます。
また、患者様へのポジショニングの指示も重要です。検査中に体動があると、画像劣化により正確な評価が困難になります。
さらに、可能であれば、検査前に受傷機転(例:バスケットボールで着地時に膝を捻った)や、疼痛部位、腫脹の有無などの臨床情報を把握しておくと、画像を評価する上での手助けとなります。これらの情報を読影医に伝えることも、診断の一助となります。
まとめ
この記事では、膝関節MRIにおけるACL損傷の見方について解説しました。ACL損傷は、靱帯そのものの信号や連続性の評価(Primary signs)に加えて、骨挫傷や半月板損傷などの関連所見(Secondary signs)を合わせて評価することが診断の鍵となります。適切な撮影と詳細な画像観察が、正確な診断、ひいては患者様の適切な治療に繋がります。日々の業務で様々な症例に触れる中で、画像を見る力をさらに磨いていただければ幸いです。