症例で学ぶ画像の見方

頭部CT画像の見方:くも膜下出血をどう捉えるか

Tags: 頭部CT, くも膜下出血, SAH, 画像診断, 救急画像

はじめに

頭部CT検査は、頭痛や意識障害などの症状で救急搬送される患者さんに対し、脳卒中や頭部外傷などの重篤な疾患を迅速に鑑別するために非常に重要な検査です。特に、くも膜下出血(Subarachnoid Hemorrhage: SAH)は突然発症し、重篤な転帰をたどることが多い疾患であり、早期診断が患者さんの予後を大きく左右します。

放射線技師として、頭部CT画像からSAHの所見を正確に捉える能力は不可欠です。この記事では、SAHの頭部CT画像における典型的な所見と、画像を見る上での具体的なポイントについて解説します。

症例提示(解説パート)

くも膜下出血は、脳を覆うくも膜の下の空間(くも膜下腔)に出血が生じる状態です。頭部CT画像では、この出血が血液として描出されるため、周囲の脳実質や脳脊髄液に比べて高吸収域として観察されます。

画像を見る際には、まず脳溝や脳槽といった脳脊髄液が存在する空間に注目することが重要です。典型的なSAHでは、血液が脳脊髄液と混ざり合い、これらの空間に沿って高吸収域として拡がります。

具体的には、以下のような部位を系統的に観察します。

これらの脳溝や脳槽に沿って線状、あるいは塊状の高吸収域が認められた場合、SAHを強く疑います。微量の出血では、脳溝の一部にわずかな高吸収域として認められることもありますので、細部まで注意深く観察する必要があります。

また、SAHの原因となる動脈瘤が破裂した場合、動脈瘤近傍の脳実質内に出血を伴う(実質内血腫)こともあります。これもSAHの重要な合併症であり、画像で確認する必要があります。

画像の見方のポイント

SAHの診断において、CT値を確認することは補助的な手段として有効です。新鮮な血液はCT値が約60〜80Hounsfield Unit (HU)程度の高吸収域として描出されます。脳脊髄液は0〜10HU程度の低吸収域ですので、脳脊髄液が存在するはずの空間に高吸収域があれば、出血を強く疑う根拠となります。

ただし、SAHと紛らわしい画像所見も存在します。例えば、脳表の石灰化や、陳旧性の外傷による脳表のわずかな萎縮とそれに伴う脳溝の拡大、硬膜下の石灰化などがSAHと見間違われることがあります。このような構造物は脳溝や脳槽に沿って見えても、形状やCT値が典型的SAHの出血とは異なります。特に、脳表の血管の石灰化は高吸収域として線状に見えることがあり、注意が必要です。画像処理のウィンドウレベルやウィンドウ幅を調整することで、これらの鑑別が容易になる場合があります。

また、造影剤を使用していない頭部単純CTがSAHの診断には最も有用ですが、SAHと診断された後は、原因となる脳動脈瘤を同定するためにCT血管撮影(CTA)やMR血管撮影(MRA)が追加で実施されることが一般的です。これらの画像では、動脈瘤の有無や形状、位置などを評価し、治療方針の決定に役立てます。単純CT画像で動脈瘤そのものが高吸収域として確認できることもありますが、これはまれな所見です。

臨床的な意義・注意点

SAHの典型的な症状は、「今まで経験したことのない突然の激しい頭痛(雷鳴様頭痛)」です。吐き気、嘔吐、項部硬直、意識障害などを伴うこともあります。このような症状を呈する患者さんが来院された場合、緊急で頭部CT検査が行われます。

放射線技師として、SAHを疑う症例に対しては、迅速かつ適切な撮影を行うことが求められます。 * 撮影条件: 十分な分解能が得られるよう、適切なスライス厚(通常は5mm以下、特に脳底槽部は薄いスライスで確認することが望ましい)で撮影します。 * 体位: 患者さんの状態によっては、仰臥位を保つのが難しい場合もありますが、可能な限り正確な撮影断面が得られるように工夫します。 * 情報収集: 患者さんの症状(特に頭痛発症からの時間)や、既往歴(高血圧など)などの臨床情報は、画像所見を評価する上で参考になります。

また、CTでSAHがはっきりしない場合でも、臨床的に強く疑われる場合には、腰椎穿刺による脳脊髄液検査でSAHが診断されることもあります。放射線技師は、CTで明らかな出血が見られない場合でも、臨床的な疑いが強いことを理解し、その後の検査プロセス(例えば、追加の画像検査や腰椎穿刺の準備など)について医療チーム内で情報共有されていることを意識しておくことが重要です。

まとめ

くも膜下出血は、頭部CT検査で迅速に診断すべき重篤な疾患です。画像評価においては、脳溝や脳槽といった脳脊髄液空間に沿った高吸収域の有無を系統的に確認することが重要です。微量の出血や紛らわしい所見も存在するため、注意深い観察と、ウィンドウレベル・幅の調整、そして臨床情報との照らし合わせが診断精度を高めます。

SAHの画像所見を的確に捉えることは、患者さんの予後を左右する早期診断に貢献します。日々の検査において、この記事で述べたポイントを意識し、実践的な画像の見方を習得していくことが、放射線技師としてのスキル向上につながります。