頭部CT画像の見方:脳出血をどう捉えるか
はじめに
この症例記事では、頭部CT画像から脳出血をどのように捉え、評価するかに焦点を当てて解説します。脳出血は緊急性の高い疾患であり、迅速かつ正確な画像評価が重要です。放射線技師として、その特徴的な画像所見を理解し、適切に情報を伝えるスキルは欠かせません。
この記事を通じて、頭部CT画像における脳出血の基本的な見方、注目すべきポイント、そして臨床的な意義について実践的に学びます。
症例提示:頭部CT画像における脳出血の捉え方
脳出血のCT画像は、通常、高吸収域として描出されます。これは、出血したばかりの血液が高密度のためにCT値が高くなるためです。画像を見る際には、この高吸収域が脳内のどこに位置しているかをまず確認することが重要です。
- 血腫の位置と広がり: 画像を確認する際には、血腫が脳のどの部位に発生しているか(大脳皮質下、脳葉内、基底核、視床、脳幹、小脳など)、そしてどの程度広がっているかを評価します。高血圧性の脳出血は基底核や視床に多く見られますが、脳アミロイドアンギオパチーによる出血は脳葉性の皮質下に多く見られるなど、原因疾患によって好発部位があります。血腫の辺縁は比較的はっきりしていることが多いです。
- 血腫の大きさ: 血腫の大きさを評価することは、その後の治療方針や予後予測において非常に重要です。CT画像上で、血腫の最大径を3方向(長軸、短軸、高さ)で計測し、簡単な計算式(A x B x C / 2など)で体積を概算することも一般的です。
- 周囲の所見: 血腫の周囲に低吸収域として描出される浮腫の有無と広がりも評価します。浮腫が強い場合は、周囲の正常脳組織を圧迫し、脳ヘルニアを引き起こす可能性があります。また、血腫による圧迫で、脳室の偏位や変形、正中構造の偏位が生じていないかを確認します。これは、脳圧亢進や脳ヘルニアの徴候を示唆するため、特に注意が必要です。
- 脳室への波及: 血腫が脳室内に破れて流入している(脳室穿破)場合、脳室内に高吸収域が描出されます。脳室穿破は予後不良因子の一つであり、水頭症を合併することもあります。脳室の形状や大きさに変化がないか、脳室内に高吸収域がないかを注意深く観察します。
画像の見方のポイント
脳出血のCT画像評価では、単に出血があるかないかだけでなく、その特徴を詳細に捉えることが重要です。
- ウィンドウ設定: 頭部CTの画像評価では、通常、脳実質を見るための標準ウィンドウと、骨・出血などを評価しやすい狭いウィンドウ幅のサブウィンドウ(例:脳卒中ウィンドウ)を切り替えて見ることが推奨されます。出血は標準ウィンドウでも見えますが、辺縁や内部構造、周囲の微細な変化を評価するためには複数のウィンドウで確認すると良いでしょう。
- 経過による変化: 脳出血のCT所見は時間とともに変化します。超急性期(発症直後)では淡い高吸収域として描出されることがありますが、数時間後には典型的な濃度の高い高吸収域となります。亜急性期になると血腫は徐々に等吸収域に近づき、慢性期には低吸収域(脳軟化巣や嚢胞)となります。経過が分かっている場合は、所見が時期と一致するかを確認することも重要です。
- 造影剤の必要性: 外傷性の出血や、血管奇形(動静脈奇形:AVMなど)の破裂による出血が疑われる場合は、造影CTやCTアンギオグラフィーが追加で実施されることがあります。造影CTでは、活動性の出血や基礎疾患となる血管病変が描出される可能性があります。非外傷性出血であっても、高齢者の脳葉出血などではアミロイドアンギオパチーの鑑別のため造影が考慮されることもあります。オーダーに応じて、適切なプロトコルで撮影することが求められます。
臨床的な意義・注意点
脳出血は神経学的重症度と密接に関連するため、救急対応が不可欠です。放射線技師は、迅速に高品質な画像を提供するとともに、画像上で緊急性の高い所見(大きな血腫、脳室穿破、正中偏位など)があれば、速やかに医師に伝える必要があります。
- 撮影時の注意点: 患者さんの状態によっては、体動が大きい場合があります。体動は画像劣化の大きな原因となるため、可能な限り体動抑制に努める必要があります。また、出血部位によってはビームハードニングアーチファクトの影響を受けやすい場合(例:脳幹出血)があります。適切なスライス厚や再構成法を選択することも、診断能の高い画像を得る上で重要です。
- 報告のポイント: 技師として、画像に異常所見があることを認識し、医師に簡潔かつ正確に報告することは非常に重要です。「左基底核に出血が見られます」「脳室内に波及しています」「正中偏位を伴っています」など、具体的な所見を伝えることで、その後の対応がスムーズに進みます。
まとめ
頭部CT画像における脳出血の評価は、救急医療において放射線技師が担う重要な役割の一つです。高吸収域として描出される血腫の位置、大きさ、周囲の浮腫や圧迫効果、そして脳室への波及の有無などを体系的に評価することが求められます。
この記事で解説したポイントを押さえることで、日々の業務における頭部CT画像の観察眼を養い、患者さんの診断・治療に貢献できることを願っています。