症例で学ぶ画像の見方

CTA画像の見方:大動脈解離をどう捉えるか

Tags: CTA, 大動脈解離, 画像診断, 救急, 循環器

はじめに

大動脈解離は、血管壁が引き裂かれる非常に重篤な病態であり、迅速な診断と治療が必要です。CT血管造影(CTA)は、大動脈解離の診断において最も重要な画像検査の一つです。放射線技師は、この緊急性の高い検査において、質の高い画像を迅速に提供することが求められます。

この記事では、CTA画像から大動脈解離をどのように捉えるか、具体的な画像所見の見方や、検査を実施する上で知っておくべきポイントについて解説します。

症例提示:CTA画像における大動脈解離の所見

実際のCTA画像を見る際には、まず大動脈全体を丁寧に観察することが重要です。大動脈解離の最も特徴的な所見は、「内膜フラップ」と呼ばれるものです。これは、大動脈の内膜が剥がれてできた膜状構造で、血管腔を「真腔」と「偽腔」の二つに分割しています。

画像を見る際は、以下の点に注目してください。

  1. 内膜フラップの有無と走行: 大動脈壁内に、造影剤で満たされた血管腔を分ける線状構造がないかを探します。この線状構造が内膜フラップです。フラップは解離腔の入り口(エントリー)から出口(リエントリー)まで連続して走行することが多いですが、部分的に見えにくいこともあります。
  2. 真腔と偽腔の識別: 内膜フラップによって分けられた二つの腔のうち、どちらが真腔でどちらが偽腔かを判断します。一般的に、真腔は円形に近い形状で、造影剤の流入が速いため早く濃染します。一方、偽腔は三日月形や楕円形を呈することが多く、真腔よりも造影剤の濃染が遅れる傾向にあります。ただし、偽腔が血栓化している場合は造影されません。
  3. 偽腔の血栓化: 偽腔内に造影剤が流入せず、内部が均一な低吸収域として描出される場合は、偽腔が血栓化していることを示唆します。完全血栓化、部分血栓化など、血栓化の程度も確認が必要です。
  4. エントリーの位置: 解離が始まった部位、つまり内膜が最初に剥がれたエントリー(entry)の位置を特定することも診断上重要です。画像上、フラップが始まる部分や、壁の不整として認められることがあります。
  5. 解離の範囲: 解離が大動脈のどの範囲に及んでいるかを確認します。上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈、腹部大動脈など、どこまで解離が及んでいるかを把握することは、Stanford分類(Type AまたはType B)の判断に不可欠です。
  6. 分枝血管への影響: 大動脈から分岐する重要な血管(冠動脈、頸動脈、鎖骨下動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈、腸骨動脈など)が、真腔または偽腔のどちらから分岐しているか、あるいは解離によって圧迫や閉塞を受けていないかを確認します。これは臓器虚血の有無やリスク評価に直結します。

単純CTでも、大動脈壁の肥厚や、高吸収域を伴う壁内血腫として解離が疑われる所見が得られることがありますが、内膜フラップや真腔・偽腔の正確な評価には造影CTが必須です。

画像の見方のポイント

大動脈解離の画像評価では、Stanford分類の理解が欠かせません。 * Stanford Type A: 解離が上行大動脈に及んでいるもの。緊急手術が必要な場合が多い。 * Stanford Type B: 解離が上行大動脈には及ばず、下行大動脈以下に限局しているもの。内科的治療が選択されることが多い。

Type AとType Bの鑑別は、解離が上行大動脈に及んでいるか否か、ただ一点で決まります。上行大動脈起始部、特にバルサルバ洞や冠動脈分岐部に解離が及んでいるかどうかの確認は特に重要です。

CTA撮影時には、適切なタイミングで造影剤を注入し、動脈相を確実に捉えることが重要です。多くの場合、 bolus tracking 法を用いて上行大動脈または下行大動脈でトリガーを設定します。広範囲に及ぶ可能性があるため、撮影範囲は頭部から骨盤まで、あるいはそれ以上とすることがあります。また、画像再構成においては、軸位断だけでなく、大動脈に沿った曲面再構成(CPR: Curved Planar Reconstruction)や最大値投影(MIP: Maximum Intensity Projection)を作成することで、内膜フラップの走行や解離の広がり、分枝血管への影響をより立体的に、分かりやすく評価できます。これらの再構成画像を適切に作成・提供することも、放射線技師の重要な役割です。

臨床的な意義・注意点

大動脈解離は、突然発症する激しい胸痛や背部痛を主訴とすることが多いですが、無痛性の場合や、神経症状、臓器虚血による症状を呈することもあります。Type A解離は心タンポナーデや大動脈弁閉鎖不全、冠動脈解離などを合併し、致死率が非常に高いため、迅速な対応が必要です。

放射線技師として、大動脈解離が疑われる患者様の検査を行う際には、以下の点に注意が必要です。

まとめ

大動脈解離のCTA画像では、内膜フラップによる真腔と偽腔の分離、解離の範囲、分枝血管への影響などが重要な所見となります。これらの所見を正確に捉えるためには、解剖学的な知識と病態の理解が必要です。また、緊急検査としての迅速な対応、適切な撮影プロトコル、造影剤管理、そして診断医をサポートするための画像処理能力も放射線技師にとって不可欠です。本記事が、皆様の日常業務における大動脈解離の画像評価の一助となれば幸いです。