症例で学ぶ画像の見方

胸部X線画像の見方:見落としやすい気胸を捉える

Tags: 気胸, 胸部X線, 画像診断, 放射線技師

はじめに

放射線技師の皆様、日々の業務お疲れ様です。 この症例解説では、胸部X線写真における気胸の見方について解説します。気胸は緊急性を要する場合もあり、迅速かつ正確な診断が重要です。特に体位によっては所見が見えにくくなることがあり、見落としやすい病態の一つと言えます。

この記事を通じて、胸部X線写真で気胸を確実に捉えるための実践的な画像の見方と、注意すべきポイントを学んでいきましょう。

症例提示(解説パート)

ここに胸部X線写真があると仮定して、気胸の所見をどのように見ていくかを解説します。

まず、肺野全体を注意深く観察します。気胸がある場合、肺が虚脱し、胸腔との間に空気が貯留します。この貯留した空気によって、肺の外縁、すなわち臓側胸膜が線状構造として描出されます。これが気胸診断における最も重要な所見の一つである「臓側胸膜線」です。

画像を見る際は、まず肺尖部、肺外側、肺底部といった気胸の好発部位から注意して観察を始めます。健常な胸部X線写真では、胸郭の内縁に沿って肺血管影が末梢まで見られますが、気胸がある部位では臓側胸膜線より外側には肺血管影が見えません。臓側胸膜線と胸郭壁の間が、血管影のない透過性の高い領域として描出されることになります。

特に、臥位で撮影されたX線写真では、貯留した空気が胸腔の最も腹側、すなわち肺底部や縦隔周囲に貯留しやすい傾向があります。立位で見られるような明瞭な臓側胸膜線が見られない場合でも、深い肋横隔膜角(Deep sulcus sign)や、心臓や縦隔の辺縁に沿って透過性の高い領域がないかなど、非定型的な所見にも注意を払う必要があります。

画像の見方のポイント

気胸を確実に診断するためには、いくつかの重要なポイントがあります。

  1. 臓側胸膜線の同定:

    • まず、肺野の辺縁に沿って、細く白い線がないか注意深く探します。この線は虚脱した肺の表面、つまり臓側胸膜です。
    • この線の外側には、肺の血管影が見られない透過性の高い空間(気腔)が広がっているはずです。血管影の有無が、臓側胸膜線であることの重要な裏付けとなります。
    • 線の濃度や明瞭度は、気胸の量や体位によって変化します。少量の場合や臥位の場合、見つけにくいことがあります。
  2. 透過性の高い領域の確認:

    • 臓側胸膜線の外側の領域が、健側と比較して透過性が高くなっているかを確認します。血管影がないため、黒っぽく写ります。
    • この透過性の高い領域が、臓側胸膜線に沿って胸郭壁との間に存在することが気胸の証拠となります。
  3. 体位による見え方の違い:

    • 立位: 空気が胸腔の上部(肺尖部や外側)に貯留しやすく、比較的臓側胸膜線が見えやすいです。
    • 臥位: 空気が腹側に移動し、肺底部や縦隔脇に貯留します。肺尖部に明らかな臓側胸膜線が見られず、診断が難しくなることがあります。前述のDeep sulcus sign(患側の肋横隔膜角が健側より深く鋭角に見える所見)や、縦隔辺縁の透亮像に注意が必要です。
  4. 紛らわしい線状構造との鑑別:

    • 皮膚のヒダ(skin fold)は、気胸の臓側胸膜線と見間違えやすいアーチファクトです。皮膚ヒダは通常、胸郭壁を越えて連続している場合が多く、また血管影がその外側に見られることがある点で鑑別が可能です。衣服やドレーンの影なども同様に注意が必要です。
  5. 呼気撮影の有用性:

    • 少量気胸の場合、呼気時に肺がより虚脱することで、臓側胸膜線が明瞭になり診断しやすくなることがあります。可能であれば呼気相の画像と比較検討することも有効です。

臨床的な意義・注意点

気胸は、肺のう胞破裂による自然気胸、肺疾患(COPDなど)に合併する続発性気胸、外傷性気胸など、様々な原因で発生します。

特に、気胸の量が多かったり、緊張性気胸(胸腔内圧が上昇し、循環抑制や縦隔偏位をきたす緊急性の高い状態)に移行したりする可能性があるため、胸部X線写真で気胸が疑われる場合は、速やかに医師へ報告することが重要です。

放射線技師としては、気胸が疑われる患者さん、特に呼吸困難を訴えている患者さんの撮影においては、迅速かつ適切な体位での撮影を行うことが求められます。また、画像の濃度やコントラストを適切に調整し、見落としやすい所見が描出されるように配慮することも、診断に貢献するために非常に重要です。

胸部X線で気胸が疑われるものの診断が困難な場合や、気胸の量、ブラやブレブの有無などを詳しく評価する必要がある場合には、胸部CT検査が行われます。

まとめ

この記事では、胸部X線写真における気胸の見方、特に見落としやすいポイントに焦点を当てて解説しました。

重要な点は以下の通りです。

日々の画像観察において、これらのポイントを意識していただくことで、気胸の見落としを防ぎ、より正確な画像評価に繋がることを願っております。