症例で学ぶ画像の見方

胸部X線画像の見方:心拡大をどう評価するか

Tags: 胸部X線, 画像の見方, 心拡大, CTR, 放射線技師

はじめに

胸部X線画像は、心臓の状態を評価する上で基本的な検査モダリティの一つです。特に心臓の大きさ、すなわち心拡大の有無を確認することは、心疾患のスクリーニングにおいて重要です。放射線技師として、心拡大を適切に評価し、画像から関連する所見を読み取れることは、日々の業務において非常に役立ちます。

この記事では、経験3年程度の放射線技師の皆様を対象に、胸部X線画像における心拡大の見方について、実践的なポイントを症例解説とともにお伝えします。CTR(心胸郭比)の測定方法や、心拡大に伴って見られる可能性のある所見など、画像評価に役立つ知識を習得していただければ幸いです。

症例提示と画像の見方(解説パート)

提示された胸部X線画像(正面像、立位)を見てみましょう。まず、心臓の大きさを評価するために、心胸郭比(Cardiothoracic Ratio; CTR)を測定します。

CTRは、心臓の最大横径と胸郭の最大内径(横隔膜レベルで最も広い部分)の比率で定義されます。画像上で以下の点を測定します。

  1. 心臓の右縁から正中線までの最大距離(A)
  2. 心臓の左縁から正中線までの最大距離(B)
  3. 左右の胸郭内縁間の最大距離(C)

CTRは (A + B) / C の式で計算されます。立位で撮影された成人胸部X線写真において、CTRが0.5(または50%)を超える場合に心拡大と判断されるのが一般的です。

この症例画像では、心陰影が胸郭内径の半分を明らかに超えて見えています。具体的に測定してみると、CTRは0.6程度を示しており、心拡大と評価できます。

また、心拡大がある画像では、心陰影の形態にも注意を払う必要があります。右心房や左心室などが拡大している場合、心陰影の特定の辺縁が突出して見えることがあります。この症例では、特に左心室の拡大を示唆するような心尖部の下外側への偏位が見られます。

さらに、肺野にも目を向けましょう。心拡大、特に左心不全に伴う心拡大がある場合、肺うっ血の所見が見られることがあります。画像上では、肺血管陰影の拡張(特に上肺野血管の拡張)、Kerley B-line(胸膜直下の短い横方向の線状陰影)、あるいは肺水腫によるびまん性の浸潤影として現れます。この症例では、肺野に明らかなKerley B-lineやびまん性浸潤影は見られませんが、上肺野の血管陰影が比較的拡張しているように見受けられます。

最後に、胸水にも注意が必要です。心不全による体液貯留の結果、胸水が貯留することがあります。画像では、肋骨横隔膜角の鈍化や、貯留量に応じて肺野下部の濃度上昇として現れます。この症例では、胸水を示唆する明らかな所見は認められません。

画像の見方のポイント

心拡大を評価する際は、CTR測定が基本となりますが、これだけでは十分ではありません。以下の点にも注意を払うことが、より正確な画像評価につながります。

臨床的な意義・注意点

心拡大は、心不全、心筋症、弁膜症、心膜液貯留など、様々な心疾患を示唆する重要な所見です。胸部X線で心拡大が指摘された場合、臨床医は心電図、心臓超音波検査、CT、MRIなどの精密検査を検討することになります。

放射線技師としては、正確なCTR測定と、心陰影の形態異常や合併所見の見落としを防ぐことが重要です。特に体位や吸気といった撮影条件がCTRに影響することを理解し、必要に応じて再撮影を検討したり、臨床情報と照らし合わせたりする視点を持つことが求められます。

まとめ

胸部X線画像における心拡大の評価は、CTR測定を基本としますが、体位、撮影条件、心陰影の形態、そして肺野や胸膜の関連所見を総合的に見ることが重要です。経験を積むことで、画像からより多くの情報を読み取り、臨床診断に貢献できるようになります。日々の業務の中で、様々な症例の胸部X線画像を注意深く観察し、画像の見方をさらに磨いていきましょう。