症例で学ぶ画像の見方

腹部X線画像の見方:見落としがちなフリーエアーを捉える

Tags: 腹部X線, フリーエアー, 消化管穿孔, 画像診断, 放射線技師

はじめに

腹部X線検査は、腹部救急疾患の診断において依然として重要な役割を担っています。多くの情報が得られる一方で、見慣れていない所見や些細な変化を見落としてしまう可能性もゼロではありません。特に、緊急性の高い所見を見逃すことは、患者さんのその後の治療に大きく影響するため、放射線技師としても細心の注意を払う必要があります。

本記事では、腹部X線画像において見落としやすいものの、臨床的に非常に重要な所見である「横隔膜下のフリーエアー(遊離ガス)」に焦点を当てます。これは消化管穿孔を強く示唆する所見であり、迅速な対応が求められます。症例を通して、フリーエアーを確実に捉えるための画像の見方やポイントについて解説します。

症例提示(解説パート)

今回取り上げる症例は、急性腹症を訴える患者さんの腹部X線画像です。腹痛があり、消化管穿孔の可能性も念頭に置かれ、立位での撮影が行われました。

実際の画像では、まず左右の横隔膜の下を注意深く観察します。横隔膜の辺縁に沿って、通常は描出されない黒っぽい帯状または三日月状の透過像が見えるかどうかを確認します。これがフリーエアーです。

特に、横隔膜の中央部よりも、外側(肋骨側)に近い部分に描出されやすい傾向があります。右側の横隔膜下は肝臓があるため、フリーエアーが溜まりやすく、比較的見つけやすい部位と言えます。左側の横隔膜下は胃泡や結腸ガスなどがあるため、フリーエアーと紛らわしい場合もありますが、消化管の辺縁とは異なる、横隔膜の辺縁に沿った透過像を探します。

画像全体をざっと見るだけでなく、横隔膜のラインを丁寧にトレースするように視線を動かすことが重要です。息を吸ったり吐いたりした際の横隔膜の微妙な位置変化を想像しながら、横隔膜直下の僅かな空間に異常なガス像がないかを探します。低線量でコントラストがつきにくい画像や、患者さんの体位が不十分な場合など、条件によっては非常に見えにくいこともあります。横隔膜と肝臓や脾臓などの実質臓器との境界が明瞭に見えているか、その境界に不自然な透過像がないか、といった点にも注意を払います。

画像の見方のポイント

横隔膜下のフリーエアーは、消化管に穴が開いて、本来消化管内にあるはずのガスが腹腔内に漏れ出した状態(消化管穿孔)を示唆する非常に重要な所見です。腹腔内に漏れ出したガスは、比重が軽いため、患者さんが立ったり座ったりした体位をとることで、最も上側にある横隔膜の下に溜まります。

臨床的な意義・注意点

消化管穿孔は緊急手術が必要となることが多い重篤な病態です。腹腔内に消化液や細菌が広がることで、腹膜炎や敗血症を引き起こし、生命に関わる可能性もあります。

まとめ

腹部X線画像における横隔膜下のフリーエアーは、消化管穿孔という緊急性の高い病態を示すサインです。この所見を見落とさないためには、立位または半坐位での撮影の重要性を理解し、横隔膜の下の空間を左右ともに丁寧に観察する習慣をつけることが大切です。

特に、横隔膜の辺縁に沿った帯状・三日月状の透過像を探し、僅かな変化にも注意を払います。他のガスとの鑑別にも留意が必要です。横隔膜下のフリーエアーに気づき、速やかに読影医に報告することは、患者さんの予後にも関わる放射線技師の重要な役割の一つです。日々の業務の中で、腹部X線画像を見る際には、常に横隔膜下を意識し、観察する精度を高めていくように努めましょう。