症例で学ぶ画像の見方

腹部US画像の見方:急性胆嚢炎をどう捉えるか

Tags: 腹部US, 胆嚢炎, 超音波検査, 画像の見方, 急性胆嚢炎

導入:腹部USと急性胆嚢炎の評価

超音波検査(US)は、腹部疾患、特に胆道系疾患の評価において非常に重要なモダリティです。低侵襲でありながらリアルタイムでの観察が可能であり、ベッドサイドでの検査にも適しています。急性胆嚢炎は腹痛の原因として比較的頻度が高く、その診断において腹部USは第一選択となることが多い検査です。

この記事では、腹部US画像から急性胆嚢炎の所見をどのように捉えるか、具体的な画像の見方と確認すべきポイントについて解説いたします。実際の症例画像をイメージしながら、画像読影の力を高める一助となれば幸いです。

症例提示(解説パート):画像から急性胆嚢炎を読み解く

急性胆嚢炎が疑われる患者様の腹部US画像に接した際、まず胆嚢全体の形状や大きさを確認します。健常な胆嚢は空腹時であればある程度の大きさがありますが、急性胆嚢炎ではしばしば腫大が見られます。長径や短径、容積を計測し、腫大の程度を評価することが重要です。

次に、胆嚢壁に注目します。急性胆嚢炎では、胆嚢壁の肥厚が特徴的な所見の一つです。壁厚を計測する際は、胆嚢壁が最も厚くなっている部分を選び、正確な値を得るように努めます。健常な胆嚢壁は通常3mm以下ですが、急性胆嚢炎ではこれを超えて厚くなることが一般的です。また、壁の内部エコーにも注目してください。炎症が強い場合、壁の層構造が不明瞭になったり、不均一な低エコー領域が見られたりすることがあります。

胆嚢内部の評価も欠かせません。急性胆嚢炎の多くは胆石によって引き起こされるため、胆嚢結石の有無を確認します。結石は強い高エコーとして描出され、後方に音響陰影を伴います。結石の位置や数、大きさを記録します。結石が見られない急性胆嚢炎(無石胆嚢炎)の場合、胆嚢壁の肥厚や周囲の液体貯留などがより診断上のポイントとなります。胆泥や胆汁の貯留状態も確認します。

さらに、胆嚢周囲の変化も重要な所見です。炎症が胆嚢を超えて周囲組織に波及すると、胆嚢周囲の脂肪組織の高エコー化(脂肪織の炎症性変化)や、少量の液体貯留が見られることがあります。

最後に、US検査の特徴的な所見として、圧痛点での探触子による圧迫時に増強する疼痛(USマーフィー徴候)があります。画像上で胆嚢の位置を確認しながら、最も圧痛を訴える部位に探触子を当て、所見の確認と同時に疼痛の有無を評価します。これは画像所見と並んで急性胆嚢炎の診断において非常に有用な所見です。

画像の見方のポイント:実践的な観察のコツ

急性胆嚢炎のUS評価では、以下のポイントを体系的に確認することが実践的です。

これらの所見を総合的に評価することで、急性胆嚢炎の可能性を判断します。特に、胆嚢腫大、壁肥厚(4mm以上)、結石または胆泥、USマーフィー徴候は主要な所見とされています。これらの所見が複数認められる場合に、急性胆嚢炎の可能性は高まります。

鑑別疾患としては、慢性胆嚢炎の急性増悪、胆石嵌頓(無炎症)、胆嚢腺筋腫症、胆嚢ポリープ、胆嚢癌などが挙げられます。慢性胆嚢炎では壁肥厚が見られることがありますが、通常は急性炎症所見(壁の層構造消失、周囲脂肪織炎)やUSマーフィー徴候は目立ちません。

臨床的な意義・注意点:技師として知っておくべきこと

放射線技師として急性胆嚢炎のUS検査に携わる際は、以下の点に留意することが重要です。

急性胆嚢炎の診断は、US所見、臨床所見、血液検査結果などを総合してなされます。技師は質の高いUS画像情報を提供することで、正確な診断に大きく貢献できます。

まとめ

腹部USによる急性胆嚢炎の評価は、胆嚢の腫大、壁肥厚と層構造の変化、結石の有無、周囲の炎症所見、そしてUSマーフィー徴候といった主要なポイントを丁寧に確認することが重要です。これらの所見を系統的に評価し、臨床情報と照らし合わせることで、より確実な画像診断に繋がります。

患者様の状態に応じた体位変換や走査方法の工夫、そして絶食の確認といった検査上の注意点を押さえることも、質の高い画像を得るために不可欠です。急性胆嚢炎のUS所見の見方を習得することは、腹部US検査に携わる放射線技師にとって非常に実践的で有益なスキルとなるでしょう。