腹部CT画像の見方:消化管穿孔をどう捉えるか
はじめに
消化管穿孔は、診断と治療が遅れると重篤な腹膜炎を引き起こし、生命に関わる緊急性の高い病態です。放射線画像診断、特に腹部CTは、消化管穿孔の有無、穿孔部位の特定、原因疾患の検索において極めて重要な役割を果たします。この記事では、腹部CT画像から消化管穿孔の所見を読み解くための実践的なポイントについて解説します。
症例提示(解説パート)
腹部CT画像において消化管穿孔を疑う場合に最も特徴的な所見は、腹腔内の遊離ガス(フリーエアー)の存在です。画像をご覧になる際には、まずこの遊離ガスがないかを確認することが重要です。
遊離ガスは、体位によって貯留する場所が異なります。仰臥位で撮影された画像であれば、腹腔内の最も高い位置である腹腔中央部、肝臓の前方(特にSegment IVa/VIIIの前面)、あるいは横隔膜の直下に貯留していることが多く見られます。少量の場合、肝臓表面や脾臓表面、腸間膜の間、大網などに付着しているように見えることがあります。ウィンドウ幅を肺野条件に近い狭い設定に変更することで、微量のガスがより明瞭になることがあります。
次に、穿孔部位を特定するアプローチが必要です。遊離ガスが確認された場合、そのガスの発生源となっている消化管を探します。穿孔部位では、消化管壁の連続性が途絶している所見が見られることがあります。また、穿孔部位の周囲には、炎症による消化管壁の肥厚や、周囲脂肪織の濃度上昇(ストランディング)、リンパ節の腫大が伴うことが一般的です。原因となっている疾患(例:消化性潰瘍、憩室炎、腫瘍、外傷、炎症性腸疾患など)の手がかりとなる所見が、穿孔部位の近傍に認められることもあります。
さらに、腹水や膿瘍形成、腹膜の肥厚や造影剤による増強効果なども、腹膜炎の波及を示唆する所見として注意深く観察する必要があります。
画像の見方のポイント
消化管穿孔のCT画像診断において、特に注意すべき点をいくつか挙げます。
- 遊離ガスの見落としを防ぐ: 微量の遊離ガスは見落とされやすいため、ウィンドウ幅の調整や複数の体位(可能であれば)での画像を確認することが有効です。仰臥位では横隔膜下や肝臓・脾臓前面、立位や座位では横隔膜下が高頻度な貯留部位です。また、CT値でガス領域を選択的に表示するなどの機能も活用できます。
- 穿孔部位の系統的な探索: 遊離ガスの場所や分布を手がかりに、疑わしい消化管セグメント(胃、十二指腸、小腸、大腸など)を系統的に追っていくことが重要です。特に、ガスが限局している場合は、その近傍に穿孔部位がある可能性が高くなります。
- 原因疾患の評価: 穿孔の原因によって、CT所見は異なります。消化性潰瘍穿孔では、胃や十二指腸の壁肥厚や変形が見られます。憩室炎穿孔では、大腸壁の憩室やその周囲の炎症が主体となります。腫瘍が原因の場合は、腫瘤性病変が認められます。原因を特定することは、その後の治療方針決定に直結するため重要です。
- 造影CTの活用: 消化管穿孔が疑われる場合、多くのケースで造影CTが実施されます。動脈相や平衡相で穿孔部位の壁の増強効果や、周囲の炎症の程度を評価するのに役立ちます。また、造影剤が漏出している像が直接的な穿孔の所見となることもあります。経口造影剤は原則として使用しません。
臨床的な意義・注意点
消化管穿孔の画像診断は、迅速な外科的介入が必要となることが多いため、所見を正確かつ迅速に医師に伝えることが放射線技師として求められます。検査中に遊離ガスなどの決定的な所見を見つけた場合は、その場で医師に報告するなどの連携が重要になります。
また、腹部X線検査で立位腹部写真における横隔膜下のフリーエアーが先に検出されることも多くあります。腹部X線でフリーエアーが疑われた場合に、CT検査が実施されるという流れも一般的です。単純X線とCTそれぞれの利点と限界を理解しておくことも大切です。
患者さんの体位や呼吸の状態によっても、ガスの貯留部位や量が変化することがあります。可能な限り指示された体位で、呼吸の指示も適切に行うように心がける必要があります。
まとめ
腹部CT画像における消化管穿孔の診断では、腹腔内遊離ガスの有無とその分布を注意深く観察することが第一歩です。さらに、消化管壁の連続性、壁肥厚、周囲脂肪織濃度上昇などの所見から穿孔部位と原因を特定するアプローチが重要となります。緊急性の高い疾患であることを常に念頭に置き、正確な画像情報を提供することが、患者さんの予後に関わる重要な役割となります。本記事が、皆様の日常業務における腹部CT画像の見方の一助となれば幸いです。