症例で学ぶ画像の見方

腹部CT画像の見方:外傷性実質臓器損傷をどう捉えるか

Tags: 腹部CT, 外傷, 臓器損傷, 画像診断, 放射線技師

はじめに

外傷患者の画像検査において、腹部CTは体幹部損傷の評価に不可欠なモダリティです。特に脾臓、肝臓、腎臓などの実質臓器損傷は緊急性が高く、迅速かつ正確な画像評価が求められます。経験3年程度の放射線技師の皆様にとって、外傷症例の腹部CTをどのように見ればよいか、どのような点に注意すべきかを知ることは、日々の業務において非常に重要です。

この記事では、腹部CT画像における外傷性実質臓器損傷に焦点を当て、画像上の典型的な所見や、放射線技師として注目すべきポイントについて解説します。実際の症例画像を想定しながら読み進めていただくことで、外傷時の腹部CT画像の見方に対する理解を深めることができるでしょう。

症例提示と画像解説(画像が存在することを前提とした記述)

外傷により腹部CTが施行された症例を想定します。多くの場合、外傷プロトコルとして造影剤を用いたダイナミックCTが実施されます。

画像を開いたら、まず全体をパラパラとスクロールして、腹腔内のフリーエアーや大量の腹水・血腫がないかを確認します。これらは消化管穿孔や血管損傷など、より緊急性の高い病態を示唆する可能性があります。

次に、実質臓器、特に脾臓、肝臓、腎臓、膵臓に注目します。

例えば、脾臓の画像では、被膜下の三日月状の高吸収域(血腫)や、実質内を走る不整な低吸収域(裂傷)がないか丁寧に追っていきます。造影後の画像であれば、損傷部位から造影剤が血管外に漏出している像(active bleeding、活動性出血)が見られないか確認します。これは緊急止血術が必要となる可能性を示唆する重要な所見です。

肝臓の場合も同様に、実質内の裂傷や血腫、被膜下の血腫を確認します。肝臓はサイズが大きく、病変が広範囲に及ぶこともあるため、全スライスを入念に観察することが重要です。

腎臓は、外傷による損傷が比較的多い臓器の一つです。腎実質の裂傷、被膜下血腫、腎周囲血腫、そして排泄路である腎盂や尿管に造影剤の漏出がないかを確認します。

膵臓は、腹部中央部の他の臓器に囲まれた位置にあるため、損傷が見逃されやすいことがあります。膵実質の割線状の低吸収域や、膵周囲への脂肪織濃度上昇、腹水貯留などがないか注意深く観察します。

これらの実質臓器の損傷は、単独で発生することもあれば、複数の臓器にまたがることもあります。また、損傷の程度によって所見は様々であり、わずかな被膜下血腫から、臓器実質の挫滅や活動性出血まで、幅広い画像所見を呈します。

画像の見方のポイント

外傷性実質臓器損傷を評価する上で、いくつかの重要なポイントがあります。

  1. 適切なウィンドウ設定: 腹腔内出血や血腫は高吸収域(CT値が高い)として描出されるため、通常の軟部組織ウィンドウで観察するだけでなく、必要に応じてウィンドウ幅を調整し、わずかな濃度の差を見分けられるようにすることが有効です。
  2. 造影効果の評価: 外傷プロトコルでは、通常、ダイナミック造影CTが施行されます。動脈相、平衡相、遅延相(腎損傷疑いの場合は排泄相)などを比較することで、活動性出血の有無や、臓器の血流状態、排泄路の損傷などを評価することができます。特に活動性出血は早期相での造影剤の血管外漏出として描出されるため、動脈相や門脈相の観察が重要です。
  3. 隣接臓器・構造の確認: 実質臓器損傷に伴い、周囲の血管や消化管、あるいは肋骨や骨盤などの骨格系に損傷を合併していることがよくあります。主たる損傷部位だけでなく、その周囲や、外力のかかった方向にある他の構造も確認する習慣をつけることが、見落としを防ぐ上で役立ちます。
  4. 過去画像との比較: 可能であれば、過去の画像(もしあれば)と比較することで、今回の外傷による変化なのか、あるいは既存の病変なのかを区別することができます。

臨床的な意義と放射線技師としての注意点

外傷患者は、全身状態が不安定である可能性が高く、迅速な検査と画像提供が予後に大きく影響します。放射線技師として、以下の点を常に意識しておくことが重要です。

まとめ

この記事では、外傷性実質臓器損傷の腹部CT画像の見方について解説しました。脾臓、肝臓、腎臓などの実質臓器に生じる被膜下血腫や裂傷、活動性出血といった所見を正確に捉えることが、診断において非常に重要です。

放射線技師として、外傷症例における腹部CT撮影時には、迅速かつ安全な検査実施に加え、画像確認の際に重篤な所見を見落とさない注意力を持つことが求められます。ここで解説した画像の見方のポイントや臨床的な注意点を日々の業務に活かしていただき、外傷患者様の救命と予後改善に貢献できることを願っております。