症例で学ぶ画像の見方

腹部CT画像の見方:虚血性腸炎を捉える

Tags: 腹部CT, 虚血性腸炎, 画像診断, 放射線技師, 症例解説

はじめに

この記事では、腹部CT画像から虚血性腸炎をどのように捉えるかに焦点を当てます。虚血性腸炎は、腸管への血流が一時的または永続的に低下することにより、腸管壁に炎症や壊死を来す疾患です。特に高齢者に多く見られますが、若年者でも発症することがあります。

多くの場合、保存的治療で改善しますが、重症例では腸管の狭窄や壊死、穿孔に至ることもあり、適切な診断と対応が重要です。CT検査は虚血性腸炎の診断において非常に有用であり、放射線技師も特徴的な画像所見を理解しておくことが求められます。

この記事を通じて、実際の腹部CT画像を見る際に虚血性腸炎を疑う具体的な所見と、その見方のポイントを習得することを目指します。

症例提示と画像所見の解説

虚血性腸炎のCT画像所見は、疾患の重症度や経過によって多様ですが、いくつかの典型的なサインがあります。画像を見る際には、以下の点に注目します。

まず、虚血性腸炎は結腸、特にS状結腸や下行結腸に好発することが多いですが、直腸や右側結腸、小腸にも発生し得ます。腹痛や血便などの臨床症状と照らし合わせながら、病変の部位を確認します。

次に、腸管壁の変化に注目します。虚血により腸管壁がむくみ、厚く見える「腸管壁肥厚」は最も頻繁に見られる所見の一つです。この肥厚は、しばしば腸管の長軸方向に沿って連続的に認められます。

また、特徴的な所見として「ターゲットサイン(二重圏サイン)」があります。これは、造影CTにおいて、虚血により血流が低下した粘膜層の造影効果が乏しく、その外側の粘膜筋板や固有筋層が造影され、さらに外側の漿膜下層が浮腫により低吸収域となり、全体としてターゲット(標的)やドーナツのように見える現象です。このサインは急性期の虚血性腸炎に比較的特異的とされています。非造影CTでも、壁の層構造が浮腫によって描出されることがあります。

腸管壁の周囲にも変化が現れます。虚血による炎症反応の結果、腸管周囲の脂肪織の濃度が上昇して白っぽく見えます。また、腸管の拡張や、腸管内に液体が貯留していることもあります。

重症例では、腸管壁内にガスが入り込む「腸管気腫症」や、門脈系にガスが見られる「門脈ガス」といった所見が出現することがあります。これらの所見は腸管の壊死を示唆しており、非常に重篤なサインです。

画像の見方のポイント

虚血性腸炎を疑うには、単一の所見だけでなく、複数の所見が組み合わさっているかを確認することが重要です。

臨床的な意義と撮影・検査上の注意点

虚血性腸炎は、高齢者の便秘や脱水、不整脈による塞栓、低血圧、手術後など、腸管血流が低下する様々な状況で発症し得ます。特に高齢者や基礎疾患(心疾患、腎疾患、糖尿病など)を持つ患者さんでは、臨床症状が非典型的であったり、複数の病態が合併していたりすることがあります。

CT検査を行う際には、患者さんの臨床症状(腹痛の部位、性状、発症時期、血便の有無など)や既往歴、内服薬などを事前に把握しておくことが、画像の評価に役立ちます。問診で得られた情報を、画像所見と照らし合わせることで、見落としを防ぎ、より正確な情報を提供することにつながります。

撮影においては、適切な呼吸停止(特に呼気時)と、腸管の拡張を抑えるために検査前の絶食指示が重要です。また、必要に応じて造影剤を使用することで、腸管壁の血流評価やターゲットサインの描出が可能となり、診断能が向上します。造影剤使用のリスク(アレルギー、腎機能など)についても確認が必要です。

まとめ

虚血性腸炎の腹部CT画像所見は、腸管壁肥厚、ターゲットサイン、腸管周囲脂肪織濃度上昇などが典型的なサインです。これらの所見は、特にS状結腸や下行結腸に注意して観察します。

虚血性腸炎を捉えるためには、単一所見だけでなく、複数の所見の組み合わせや病変の部位、臨床情報を含めて総合的に評価する視点が重要です。また、重症例に見られる腸管気腫症や門脈ガスなどのサインを見落とさないことも、技師として果たすべき重要な役割です。

日々の検査において、これらのポイントを意識することで、虚血性腸炎の早期発見に貢献し、患者さんの予後改善につながることを期待します。