症例で学ぶ画像の見方

腹部CT画像の見方:腸閉塞の原因とレベルを特定する

Tags: 腹部CT, 腸閉塞, 画像診断, 放射線技師, 救急画像

はじめに

腹部CT検査は、急性腹症において重要な役割を果たし、中でも腸閉塞は比較的遭遇する機会の多い疾患です。腸閉塞の画像評価では、単に腸管の拡張を確認するだけでなく、閉塞の原因や閉塞している部位(レベル)、そして緊急性の高い絞扼性閉塞の兆候を捉えることが非常に重要になります。

この記事では、腹部CT画像から腸閉塞をどのように読み解くか、特に原因とレベルの特定に焦点を当てて解説します。

症例提示(解説パート)

腹部CTで腸閉塞を疑う場合、まず腸管の拡張を確認します。拡張した腸管は液体やガス貯留を伴い、正常な腸管と比較して口径が増大しています。小腸であればケルクリング褶襞(Kerckring褶襞)が、大腸であればハウストラ(haustra)が描出されます。拡張の程度や、どの腸管が拡張しているかを確認することで、閉塞のレベルを推測する手がかりが得られます。

最も重要なポイントの一つは、拡張した腸管と虚脱した腸管の間の「移行部」を見つけることです。この移行部が閉塞点であり、その部位や周辺に閉塞の原因が存在することが多いです。系統的に腸管を追っていくことで移行部を探します。小腸閉塞の場合、盲腸から末梢側に向かって追っていく、あるいは拡張した口側腸管を追って閉塞点に至るなどのアプローチが考えられます。

原因の検索も並行して行います。腸閉塞の原因は多岐にわたりますが、腹部CTで確認できるものとしては、癒着による索状物、ヘルニア門への嵌頓、腫瘍による圧迫や狭窄、胆石や糞石、腸管の炎症性変化などが挙げられます。移行部の周囲を入念に観察し、不審な構造物や病変がないかを探します。

また、緊急性の高い絞扼性閉塞を見分けることも放射線技師にとって重要な役割です。単純閉塞では血流が保たれているのに対し、絞扼性閉塞では腸間膜や腸管壁の血流が障害され、腸管壊死につながる可能性があります。CT画像で絞扼を示唆する所見としては、腸間膜の脂肪織の混濁や浮腫、腹水、腸管壁の肥厚や造影不良、腸間膜血管の走行異常や捻れ(whirl signなど)、そしてlate phaseでの腸管壁の造影不良(虚血を示唆)などがあります。これらの所見を見逃さないように注意深く観察することが求められます。

画像の見方のポイント

臨床的な意義・注意点

腸閉塞の画像診断において、放射線技師が正確な情報を提供することは、その後の患者さんの治療方針に大きく影響します。特に、絞扼性閉塞は緊急手術が必要となる場合が多く、迅速な対応が求められます。技師が絞扼を示唆する所見を捉え、速やかに医師に伝えることは非常に重要です。

撮影プロトコルにおいては、腸管の拡張や走行、移行部、そして原因を明確に描出するため、十分なスキャン範囲と適切な画像再構成が不可欠です。通常は仰臥位で腹部全体(横隔膜ドームから恥骨結合下縁まで)をスキャンしますが、必要に応じて立位や側臥位での撮影を追加する場合もあります。単純CTだけでも多くの情報が得られますが、原因検索や絞扼の評価には造影CTが有用となるケースが多いです。ただし、患者さんの腎機能やアレルギーの既往を確認し、安全に配慮する必要があります。

まとめ

腹部CTにおける腸閉塞の画像評価は、拡張した腸管の観察から始まり、移行部の特定、閉塞原因の検索、そして絞扼性閉塞の兆候の評価へと進みます。これらのステップを丁寧に行うことで、診断医への有益な情報提供が可能となります。画像所見一つ一つが持つ意味を理解し、臨床的な重要性を念頭に置いて画像を見る習慣をつけることが、放射線技師としてのスキル向上につながります。

本記事が、日々の業務における腹部CT画像の見方の一助となれば幸いです。