腹部CT画像の見方:腹部大動脈瘤をどう捉えるか
はじめに
この度は、「症例で学ぶ画像の見方」にご訪問いただきありがとうございます。この記事では、腹部CT画像において腹部大動脈瘤をどのように捉え、評価するかに焦点を当てます。腹部大動脈瘤は無症状で経過することも多いですが、破裂すると生命に関わる重篤な疾患です。放射線技師として、CT画像から大動脈瘤を正確に認識し、その特徴を把握することは非常に重要となります。
経験3年程度の放射線技師の皆様にとって、日常業務で遭遇する機会のある疾患の一つであり、その画像所見を理解しておくことは、読影補助や緊急対応の判断の一助となるはずです。この記事を通じて、腹部大動脈瘤のCT画像における見方のポイントを実践的に習得していただければ幸いです。
症例提示(解説パート)
腹部大動脈瘤の評価において、CT画像は最も有用なモダリティの一つです。単純CTでも瘤の存在や石灰化、壁在血栓などは把握できますが、造影CTを行うことで、大動脈の本幹や枝分かれ、血流の有無、血栓の範囲などをより詳細に評価することが可能です。
まず、腹部大動脈瘤は、腹部大動脈の径が正常径の1.5倍以上に拡張した状態と定義されます。一般的に、腹部大動脈の最大径が3cmを超える場合に腹部大動脈瘤と診断されることが多いです。画像を見る際は、まず大動脈の走行に沿って、その径を複数の断面(特に最大径を示す部分)で計測することが重要です。アキシャル断面だけでなく、サジタル断面やコロナル断面でも追跡し、瘤の範囲(腎動脈分岐部との位置関係など)を確認します。
次に注目すべきは、瘤の形状です。紡錘状(fusiform)に全体的に拡張するものと、嚢状(saccular)に部分的に突出するものがあります。多くは紡錘状ですが、形状によっても評価のポイントが異なる場合があります。
さらに、瘤壁の状態を詳細に観察します。 * 壁在血栓 (Mural thrombus): 瘤の内腔に沿って形成される血栓です。造影CTでは、血栓部分は造影されず、血流のある内腔が確認できます。血栓の厚さや範囲を評価します。大きな壁在血栓は、実質的な血流内腔を狭小化させることがありますが、同時に破裂リスクとの関連も重要です。 * 壁の石灰化: 動脈硬化に伴う壁の石灰化はしばしば認められます。石灰化のパターンや厚さを確認します。 * 壁の不整・菲薄化: 特に注意が必要な所見です。瘤壁の一部が不整であったり、明らかに薄くなっている箇所がないか、複数の断面で入念に確認します。これは破裂が切迫している兆候である可能性があります。
最後に、瘤周囲の変化を評価します。 * 周囲脂肪織の浸潤: 瘤の周囲の脂肪織に濃度上昇や線状構造が見られる場合、炎症性変化や、微小な漏出を示唆している可能性があります。 * 後腹膜血腫: 大動脈瘤周囲に高濃度の液体貯留が見られる場合、破裂による出血、すなわち後腹膜血腫を強く疑います。これは緊急性の高い所見です。 * 隣接臓器への影響: 瘤が大きくなると、周囲の静脈や尿管などを圧迫し、血栓症や水腎症を引き起こすことがあります。
画像の見方のポイント
腹部大動脈瘤のCT画像を評価する際には、以下の点を体系的に確認する習慣をつけることが有用です。
- 最大径の計測: 大動脈の走行に沿って、最大径を示す断面を正確に計測します。この径が治療方針を決定する上で最も重要な指標となります。
- 瘤の解剖学的範囲: 瘤が腎動脈の分岐部より上にあるか(腎上性)、下にあるか(腎下性)、あるいは腎動脈を巻き込んでいるかを確認します。これは手術方法の選択に影響します。また、総腸骨動脈への波及の有無も確認します。
- 壁の状態: 壁在血栓の範囲や厚さ、石灰化の程度、そして最も重要な壁の不整や菲薄化の有無を詳細に観察します。
- 周囲の変化: 周囲脂肪織の浸潤や後腹膜血腫の有無は、破裂や切迫破裂のサインとして最も注意すべき所見です。
- 造影効果: 造影CTであれば、血流のある内腔と壁在血栓を明確に区別できます。また、瘤壁の造影効果が異常に強い場合(炎症性大動脈瘤など)も鑑別診断として考慮に入れます。
- 複数断面での観察: アキシャル像だけでなく、サジタル像、コロナル像、さらに場合によっては3D再構成画像などを活用し、多角的に評価することが重要です。特に壁の不整や周囲への浸潤は、単一断面では見落としやすいことがあります。
臨床的な意義・注意点
腹部大動脈瘤の最大のリスクは破裂です。瘤径が大きくなるほど破裂リスクは高まります。一般的に、径が5cmを超える場合は外科的治療(開腹手術または血管内治療:EVAR)が検討されることが多いです。
放射線技師としては、以下の点に注意が必要です。 * 緊急性の判断: 破裂を示唆する所見(後腹膜血腫、周囲脂肪織の広範な浸潤、突然の径の増大など)をCT画像から迅速に認識し、医師に報告することの重要性を理解しておく必要があります。 * 造影検査のプロトコル: 血管構造や血栓の詳細な評価には造影CTが不可欠です。適切な造影剤量、注入速度、スキャンタイミング(動脈相、平衡相など)を選択することが、診断能を高める上で重要です。特にEVAR術後のフォローアップでは、エンドリークの評価のために特定のプロトコルが必要となる場合があります。 * 患者情報: 腹部大動脈瘤の既往や、急激な腹痛・腰痛などの症状がある場合は、破裂を念頭に置いて検査・画像評価にあたることが求められます。
まとめ
この記事では、腹部CT画像における腹部大動脈瘤の見方について解説しました。腹部大動脈瘤の評価においては、瘤の最大径、形状、壁在血栓の有無、壁の状態、そして周囲の変化を系統的に確認することが重要です。特に、破裂を示唆する所見を見落とさないよう、複数の断面で入念に画像を確認する習慣をつけましょう。
腹部大動脈瘤の画像評価は、患者さんの予後に関わる重要な役割を担っています。日々の業務の中で、一つ一つの症例から学びを深めていくことが、皆様のスキル向上に繋がると信じています。今後も様々な症例に触れながら、自信を持って画像と向き合えるよう、共に学習を進めていきましょう。