症例で学ぶ画像の見方

腹部CT画像の見方:急性腎盂腎炎をどう捉えるか

Tags: 腹部CT, 腎盂腎炎, 感染症, 画像診断, 腎臓

はじめに

日々の業務で腹部CT検査に携わる中で、様々な疾患の画像を目にされることと思います。今回は、比較的遭遇する機会が多い急性腎盂腎炎に焦点を当て、腹部CT画像におけるその見方について解説します。経験3年程度の放射線技師の皆様にとって、実際の画像を見る際に役立つ実践的な知識を提供することを目的とします。

症例提示(解説パート)

急性腎盂腎炎が疑われる患者様の腹部CT画像を見る際、特に注目すべきポイントがいくつかあります。

まず、単純CT像では、罹患した側の腎臓がわずかに腫大していることがあります。また、腎周囲の脂肪織濃度が上昇している所見も重要なサインです。これは炎症が腎実質から周囲組織に波及していることを示唆しています。しかし、単純CTだけでは診断が難しい場合が多いため、通常は造影CTが行われます。

造影CTでは、特徴的な腎実質の造影効果のムラや不均一性が観察されます。具体的には、皮質や髄質に沿った楔状、線状あるいは斑状の造影不良域(造影されにくい部分)が見られることがあります。これは、炎症によって腎血流が低下したり、尿細管が閉塞したりしているためと考えられます。特に、造影早期相(皮質髄質相)では皮髄境界が不明瞭になることが多く、この所見も重要な手掛かりとなります。後期相(排泄相)では、集合管内に造影剤が貯留している像(Tubular stasis)や、造影不良域がよりはっきりとしてくることがあります。

炎症が強い場合は、腎周囲脂肪織濃度の上昇がより広範囲に及んだり、傍腎筋膜や腎筋膜(Gerota筋膜)が肥厚したりする所見も伴います。さらに、急性腎盂腎炎は尿路閉塞を合併することがあるため、水腎症や、結石などの閉塞原因の有無も確認することが重要です。腎臓だけでなく、尿管や膀胱といった下部尿路に炎症が波及している所見が見られることもあります。

画像の見方のポイント

急性腎盂腎炎の画像所見は、疾患の進行度や炎症の程度によって様々です。典型的な所見が見られない非典型例や、微細な変化を見落とさないためには、いくつかの点に留意する必要があります。

臨床的な意義・注意点

放射線技師として、急性腎盂腎炎のCT検査の臨床的な意義を理解しておくことも重要です。CT検査は、急性腎盂腎炎の診断を確定するだけでなく、炎症の範囲や重症度を評価し、腎膿瘍や壊死性腎乳頭炎といった合併症の有無を確認する目的で行われます。また、尿路結石や先天性疾患など、腎盂腎炎の原因となりうる基礎疾患を検索するためにも有用です。

検査を実施する上での注意点としては、造影剤を使用することが多いため、患者様の腎機能やアレルギー歴の確認が必須です。また、適切な造影タイミングで最適なコントラストが得られるように、インジェクションプロトコルやスキャンスケジュールの管理を正確に行う必要があります。特に、腎実質の評価には皮質髄質相から平衡相にかけての撮像が重要となります。息止めが困難な患者様では、息止めのタイミングを分かりやすく指示するなどの工夫も求められます。

まとめ

急性腎盂腎炎の腹部CT画像では、腎腫大、腎周囲脂肪織濃度上昇、そして造影CTにおける腎実質の不均一な造影効果(楔状/線状の造影不良域、皮髄境界不明瞭化など)が重要な所見となります。これらの所見を見落とさないためには、単純CT、造影CTの各相を注意深く観察し、マルチプレナーリフォーマット像も活用して総合的に評価することが重要です。また、適切なウィンドウ設定や左右差の比較も有効なアプローチです。これらの画像所見を捉えることが、正確な診断と適切な治療方針の決定に貢献することにつながります。日々の業務の中で、これらのポイントを意識して画像観察に取り組んでいただければ幸いです。