症例で学ぶ画像の見方

腹部CT画像の見方:急性膵炎をどう捉えるか

Tags: 腹部CT, 膵臓, 急性膵炎, 画像診断, 放射線技師

はじめに

この記事では、腹部CT画像における急性膵炎の画像所見の捉え方について解説します。急性膵炎は、腹痛を主訴とする救急疾患としてしばしば遭遇します。画像診断は、その診断確定や重症度評価において重要な役割を果たします。特にCT検査は、膵臓自体の評価に加えて、周囲組織への炎症波及や合併症の有無を確認するために不可欠です。

経験年数3年程度の放射線技師の皆様が、腹部CT画像から急性膵炎を示唆する所見を的確に読み取り、臨床医へ正確な情報を提供できるようになることを目指します。

症例提示と画像所見の解説

急性膵炎が疑われる患者様の腹部CT画像を見る際には、以下の点に注目します。

まず、膵臓自体の変化を確認します。正常な膵臓は辺縁が比較的明瞭で、内部は均一な濃度を呈しています。急性膵炎では、膵臓の腫大や辺縁の不明瞭化が見られることがあります。特に造影CTでは、炎症を起こした領域の造影効果が低下したり、不均一になったりすることがあります。

次に、膵臓周囲の脂肪組織の変化に注目します。急性膵炎では、膵臓周囲の脂肪濃度の上昇(脂肪織の混濁)が高頻度に見られます。これは、膵臓から漏れ出した膵酵素による脂肪組織の炎症や壊死を示唆する所見であり、膵臓の腫大よりも早期に出現することもあります。膵臓前面、後面、膵周囲腔などに広がる脂肪織の混濁を探します。

さらに、液体貯留の有無も重要な所見です。炎症が波及すると、膵臓周囲や膵外に液体が貯留することがあります。これは、膵液や滲出液の貯留であり、急性期に見られるものを「急性傍膵液貯留(Acute peripancreatic fluid collection)」と呼びます。胃と膵臓の間、脾臓と膵臓の間、後腹膜腔などに低濃度の液体貯留として描出されます。

重症例では、膵臓の一部または全体が造影されない領域(非造影域)として描出されることがあります。これは膵壊死を示唆する所見であり、予後と関連が深いため、注意深く観察する必要があります。壊死した領域に感染を合併すると、ガス像が見られることもあり、これは感染性膵壊死の可能性を示唆します。

また、膵管の拡張や結石の有無も確認します。胆石が原因で急性膵炎が発症すること(胆石性膵炎)は少なくありません。総胆管の遠位端に結石がないか、膵管の拡張がないかを確認することは、原因検索の一助となります。

画像の見方のポイント

急性膵炎の画像診断においては、単に膵臓を見るだけでなく、周囲組織への炎症波及の程度を評価することが重要です。以下の点を意識して観察することで、病態の把握に役立ちます。

ルーチンで行われる造影CTは、動脈相、門脈相で撮影されることが一般的です。膵臓自体の実質や壊死の評価には動脈相後期〜門脈相が有用ですが、脂肪織混濁は単純CTでも描出されるため、単純相と造影相の両方を比較検討することも重要です。

臨床的な意義・注意点

放射線技師として、急性膵炎の画像検査に関わる上で、臨床的な背景を知っておくことは非常に有用です。急性膵炎は、原因(胆石、アルコールなど)や重症度によって治療法や予後が大きく異なります。CT画像所見は、Atlanta分類などの重症度分類にも用いられる情報源となります。

画像検査を行う際には、患者様の全身状態に注意が必要です。特に重症膵炎では、循環動態が不安定であったり、呼吸状態が悪化したりしている場合があります。検査中のバイタルサインの監視や、緊急時に迅速に対応できる準備が必要です。

また、造影剤の使用にあたっては、アレルギーや腎機能などの禁忌事項を事前に確認することが必須です。炎症が強い部位は、非造影域(壊死)と周囲の浮腫性変化、正常部分が混在して描出されることがあり、注意深く観察し、的確にレポートに記載すべき所見を医師に伝える意識を持つことが大切です。

まとめ

本記事では、腹部CT画像における急性膵炎の主な画像所見と、それらを捉えるための実践的なポイントについて解説しました。

これらの所見を組み合わせ、炎症の範囲や重症度を推測することが、急性膵炎の画像診断における放射線技師の重要な役割です。常に臨床情報と画像を照らし合わせながら、正確かつ迅速な情報提供を心がけましょう。