症例で学ぶ画像の見方

腹部CT画像の見方:急性憩室炎をどう捉えるか

Tags: 腹部CT, 急性憩室炎, 消化器, 画像診断, 放射線技師

はじめに

腹部CT検査は、急性腹症の原因検索において非常に重要なモダリティです。様々な疾患が疑われる中で、急性憩室炎も比較的遭遇することの多い疾患の一つです。経験3年程度の放射線技師の皆様にとって、実際の画像から急性憩室炎の所見をどのように捉えるかは、日々の業務において役立つスキルとなります。

この記事では、腹部CT画像における急性憩室炎の典型的な画像所見と、画像を見る上で特に注目すべきポイントについて解説します。実際の画像があると想定して、どのように画像を見ていくべきか、その思考プロセスを辿りながら学んでいきましょう。

症例提示と画像所見の解説

まず、腹部骨盤CTの軸位断像を見てみましょう。急性憩室炎が疑われる場合、まず病変がどの消化管に存在するかを確認します。憩室は結腸、特にS状結腸や下行結腸に好発することが知られています。画像上、結腸壁から外側に向かって嚢状に突出している構造が憩室です。無症状の憩室(憩室症)は多くの成人に見られますが、炎症を伴う急性憩室炎では、その憩室が存在する部位に炎症所見が見られます。

急性憩室炎の診断において最も重要な画像所見の一つは、憩室周囲の脂肪織濃度上昇(ストランディング)です。これは、炎症が憩室から周囲の脂肪組織に波及することで生じます。CT画像では、通常黒く見える脂肪組織が、まるで筋状(strand)の線や網目状の構造が出現したり、全体的に白っぽく濁ったりして見えます。炎症が強いほど、この脂肪織濃度上昇は顕著になります。

次に注目すべきは、結腸壁の肥厚です。炎症を起こしている憩室が存在する部分の結腸壁が、通常よりも厚く見えます。壁の全体的な肥厚の程度や、浮腫による低濃度部分の有無なども確認します。炎症が強い場合は、憩室自体が腫脹して見えたり、憩室の開口部が狭窄しているように見えることもあります。

また、膿瘍形成の有無も重要な所見です。炎症がさらに進行すると、憩室周囲に膿瘍を形成することがあります。画像上、境界が比較的明瞭な、内部が液体貯留を示す低濃度域として描出されます。造影CTを行った場合は、膿瘍壁が造影効果を示す(リング状に白くなる)こともあります。膿瘍の大きさや、周囲臓器(膀胱や小腸など)との位置関係も把握しておく必要があります。

軸位断像だけでなく、冠状断像や矢状断像でも病変部を確認することが推奨されます。これらの画像では、炎症の縦方向への広がりや、膿瘍のサイズ、周囲臓器との位置関係などがより分かりやすく描出されることがあります。多断面観察を行うことで、病変の全体像をより正確に把握することができます。

画像の見方のポイント

急性憩室炎の画像を見る上で、以下の点を意識すると、より的確に所見を捉えることができます。

これらの合併症の有無を確認することは、患者さんの治療方針に大きく関わるため、重要なポイントです。

臨床的な意義と撮影・検査上の注意点

急性憩室炎は、左下腹部痛を主訴とすることが多いですが、憩室が存在する部位によっては右側腹部痛(特に盲腸憩室炎)や下腹部全体の痛みを訴えることもあります。発熱や白血球増加などの炎症反応を伴うことが一般的です。

放射線技師としては、患者さんの疼痛部位を事前に把握し、その部位を中心に画像を丁寧に観察することが重要です。また、緊急性の高い急性腹症の一因であるため、迅速な検査と画像提供が求められます。

撮影プロトコルとしては、一般的に腹部から骨盤全体を含めることが推奨されます。合併症の評価のため、単純CTで異常が疑われる場合や、臨床的に重症例が疑われる場合には、造影CTが追加されることもあります。腸管の動きによるモーションアーチファクトを最小限にするため、息止めなどの指示も正確に行う必要があります。

まとめ

この記事では、腹部CT画像における急性憩室炎の画像所見と、見方のポイントについて解説しました。

日々の画像観察において、これらのポイントを意識することで、急性憩室炎の診断に貢献し、放射線技師としてのスキルアップに繋がることを願っております。